感情コントロールのスペシャリスト

二年連続の、「寝正月」である。

2018年12月半ば。これまで寝不足続きだった私を、更なる寝不足に追いやる出来事が立て続けに起きた。一日限定11時間勤務の翌日に訪れし一日限定12時間30分勤務に、飲み会、飲み会、飲み会、そして休日の無茶な外出(これは自業自得)。8時間睡眠を取らないと体にガタの来る私にとっては、たかだか5,6時間台睡眠の日が連続するだけでも、大打撃なわけである。寝不足が続くと、私は簡単に風邪を引く。その風邪をきっかけに、副鼻腔炎になる。副鼻腔炎が原因となり、咳が誘発される。その咳が睡眠を妨害、更なる睡眠不足へと私を誘う。大学時代に構築された、風邪引き後の一連の流れである。案の定、寝不足続きの私は年末に風邪を引いて、副鼻腔炎になった。一日中咳が止まらなくなり、それが睡眠を妨害した。睡眠負債が蓄積し心身共にダメージを負った私は会社を早退し、年末休みに入る直前の病院へ駆け込んだ。が、そこで副鼻腔炎の診断はいただけず、代わりにアレルギー性鼻炎と診断され、連休に突入してしまった。(1月4日に、地元の病院で副鼻腔炎の診断を得た。現在投薬治療中。)

結果。この9連休は、寝正月となった。鼻が、まるで機能しないのである。鼻炎から来る倦怠か、それとも自律神経の乱れによる疲労か、はたまた咳のし過ぎから生じる疲弊か。身体を襲う疲労感凄まじく、それに加えて咳、機能せぬ鼻、それに伴い生ずる嗅覚の無い世界。ああ、嗅覚の無い世界は、寒々しい。嗅覚は、味覚のスタイリストだ。味覚だけで味わう食事は、実に味気ない。味覚が私に伝えてくれるのは、舌より伝わる味の核、アイデンティティーだけである。食物を口に含む。舌の上に、何らかの刺激を感じる。それだけである。そこから、味が全体に広がっていかないのである。味の素材だけを楽しむ。味の核だけを楽しむ。味を味たらしめる物質より受け取る刺激のみを、楽しむ。それをスタイリッシュに広げるのが嗅覚の役目なのだろうが、生憎の休業。後は、記憶の補助に頼るほか無い。「これは確か、こんな味――」そんな記憶が、食事を食事たらしめるせめてもの救いであった。ケチ。味覚は、ケチんぼである。サービス精神に、ひどく乏しい。ああ、舌より伝わる電気信号と、記憶だけを頼りに味わう食事は楽しいか。
滅多に訪れぬ9連休は、このような日々の連続として、終わりを迎えた。張り切れば張り切るほど空回りする我が人生に、慈悲を。
しかし私は、この惨状を「必要以上」に嘆かない。いや心の何処かでは嘆いているのかも知れないが、昔のように、それを表に出して自暴自棄になったりはしない。大学時代と僅か9ヶ月の重度障害者通所施設の勤務経験より鍛え上げたメンタルマネジメントが、よく活きている。

 

無用の感情は、邪魔である。

「やむを得ず行わなければならないタスク」が人生の中心を占めるようになり、その状態に自身を無理矢理適用させようと試みると、上述した考えに辿り着く。無用の感情は、邪魔である。生活費を稼ぐため不承不承会社へ赴く道中、「本当はこんなことしていたくはないのに」とか、「こんなことに人生の大半を費やして朽ち果てていくだけの人生に何の意味があるのだろう」などと、胸の内より湧き出でし負の感情――これが無用の感情の一例である。考えても考えなくても事態の何も好転しないどころか、己を不快にするばかりの感情である。このような感情に囚われていると、理想の自分と現実の自分のギャップに辟易としてくる。その結果、仕事に取りかかる前から無駄に体力が削られる。負の感情は、体力の消耗を伴うのである。心と体は、繋がっている。体が苦しいとき、心は穏やかでいられない。逆もまた真なりで、心が乱れているときは、体の方も本調子ではいられない。畢竟。どんなことがあっても心を乱さず過ごすことが出来れば、最小限の消耗で日々をやり過ごすことが出来る――延いては、仕事中心で味気ないはずの人生が輝きを帯びてくる――のである。勿論これは、半分皮肉である。私は、「人生は辛いものだ」とする既成の価値観が心底嫌いである。半分くらい甘くちゃ、いけないのか。「甘い人生を歩みたい」と志し頑張ることは害悪か。私はそうは思わない。生きる中で「?」と思ったこと全てに対し、「いやでも、人生は辛いものだから仕方ない」と理由を付け自身を納得させるばかりの人生を歩みたいとは思わない。人生がそういったものであって欲しくはない。そういった意味で、「やむを得ず行わなければならないタスク」にまみれた人生に適応することで人生が輝き出すと表現することはすなわち皮肉である。
けれども半分はそうでない。やはり今の私のような者をはじめ、時間と労働力を他者に提供し「やむを得ず行わなければならないタスク」を日々消化しなければ生活費を得ることの出来ない人は沢山いる。その状況に甘んじる間に限り、上記の考え、感情は邪魔になる。体力を無駄に消耗させるような諸々の感情を「無用の感情」とし、排除することは難しくても、囚われぬようなメンタルを日々構築していくことは大切なことである。

そのマネジメントを可能にするのが、瞑想である。やり方は簡単。目を閉じて、呼吸に意識を向け、その間何も考えない(厳密に言うと、頭に浮かぶ様々の思考に意識が囚われないようにする)。これだけである。しかしこれがなかなか難しい。実際にやってみると分かるのだが、「何も考えない」ことを心掛けていても、気が付けばきっと、何かを考えている。呼吸以外の何かに、意識を持って行かれている。気を取り直して再度トライしても、多分、気が付けばまた何かを考えているはずである。呼吸以外の、例えば「明日仕事に行きたくないな」とか「そう言えば明後日提出の宿題まだやっていなかったな」だとか、「明日の夕食何にしよう」といった事柄に、意識が向いている。「何も考えない」、「呼吸以外の事柄に意識を向けない」という行為を実践することは、困難を極める。けれども諦めず、5秒10秒でも良いから、「何も考えない」という行為を実践してみる。毎日継続すると徐々に、自身の感情の表出の瞬間に気がつけるようになってくる。日々の自身の感情が、客観的なものとして認識されるようになってくる。結果、感情に飲み込まれることが少なくなり、何かをきっかけに表出した感情が「無用の感情」と分かれば、それを冷静に脳の外へ葬り去ることが出来るようになるのである。

仕事中。手を繋ぎたくて両手をスッと私に差し出してきた利用者。繋いであげるのがこちらの使命。しかし相手の差し出すその手は酷く汚れている。自身は洗ったばかりの綺麗な手。舞台は車内。手を洗える場所は無い。そんなとき、こんな感情が湧いてくるだろう――「嫌だ」、「汚れてもしばらく洗えないしなあ」「折角さっき綺麗にしたのに」「どうしてこのタイミングで手を繋ぎたがるんだ」――これらは、無用の感情である。こんなものに囚われていたら、無駄にイライラするだけで、何の得にもならない。それらの感情の表出は私自身も認めるところだ。しかし、それらに決して意識を持って行かれてはならぬ。その不快の情に、意識が飲み込まれてはならぬ。不快な感情の情出を客観的に認める。それが無用の感情であると断定する。その感情が意識、脳みそを支配する前に深呼吸と共に体外へ葬り去る。この一連の流れを実行できたなら、かなり感情のコントロールが出来るようになった証拠である。
胸中より現れしその感情に向ける意識は、道端でふと目に留まった何の変哲もない小石に向けるそれの如し、である。その次の瞬間には、その感情は脳の外へ放られているはず。感情を理性で抑えつけるのではない。その時には、外部へ放り出されているのである。汚れれば洗えばいいのだ。無用の感情に囚われる勿れ。そんなものにいちいち心を乱していたら、体がいくらあっても足りやしない。

入社したての私は、毎日のように無駄にイライラしていた。人付き合いをする際に生じる相反する欲求の数多の衝突に、感情と共にまともに向き合っていたため怒りや不平不満が鬱積していた。本当はそんなことないのかもしれないが、「自己の欲求の満足」に神経の100%を注ぎ、こちらの都合はつゆ知らず勝手に振る舞うように見受けられる相手との関わりを持った際は、その具合が尋常ではなかった。しかし大学時代より取り入れてきたメンタルマネジメントを再度日常に取り入れることにより、上述した無用の感情の排除を習得。その後は誇張なしに、その鬱積具合が半分ほどになった。今ではその人と関わる際も、大きく心を乱すことなく無難に関われていると思う。いやそれどころか、何故その人がそのような行動を取っているのか、その背景を考察する件にまで、精神的余力の生まれる時間が増えた。メンタルマネジメント、やていて“損”はないだろうなと思う。

 

肉体的疲労に加えて、心的疲弊の多い業界、仕事である。私の勤める施設も例外でなく、離職率は相当高い。仲良くしていた仕事仲間が一人、二人、三人とどんどん去って行くのを見送る度、寂しい思いをするわけである。この道10年20年のベテラン選手を、私は素直に凄いと思う。正直私は、今後10年20年この業界で働けるかと問われると、即座に“Yes”と返せない。いくら無用の感情を排除する術を覚えていても、やはり心の何処かでフラストレーションは溜まっている。仕事に行きたくない気持ちはその表れだ。きちんと発散していかないと、どこかでそのツケを払わねばならぬ時の来る可能性がある。感情コントロールのスペシャリストになることなんて、人間の私にはなかなか出来そうにないし、仮になれたとしても、それが幸福に直結するわけでもないと思う。

だからこそ、私は天に祈る。

次回の年末年始は、健康に迎えられますように。

 

※前回記事の「一日当たりの平均アクセス数は“2~3”」という記述、誤りです。正しくは「一日当たりの平均訪問者数は“2~3”」です。すみません。これからもよろしくお願いします。

 




8件のコメント

  1. 覚えてますか?亀井次郎さん、いやふくろうさん、すばるです!
    最近の冬は寒いので風邪の方は心配ですが、しっかり治してくださいね!
    11時間半勤務からの12時間勤務は本当に大変そうです、僕もアルバイトという雇用状態では、そのような勤務時間の時期もありましたが、正社員とは雲泥の差ですしね…
    個人の話をすると、一時期文系大学の受験も考えましたが、これからは、3月前半に免許を取得して、3月4月に中退者向けのセミナーに参加して、5月には正社員として働くことが目標です!悲しいことにまだアルバイトという雇用形態しか経験していないですが、現状働くことは好きですし、ピークとか回せたらめっちゃ嬉しいので、働くという決断をしました!
    希望の業種は決めきれてないですが、絶対NGの業種は理系分野なので、それ以外で自分の性格にマッチした企業に、という気持ちです!個人的には接客業のアルバイトを3年近く経験しており、2年近く続けてきた今のアルバイト先では、それなりの評価をもらえてはいるので、恥ずかしながらやりたい分野が明確ではないこともあり、営業職への就職希望してます!一番自分が数少ない経験の中で唯一小さな結果を出せた分野がそこなので
    職種の選択としては堅実かな、、と勝手に妄想してます。万一他業界へ転職する際に営業職をやっていると足掛かりが掴みやすいという話を、セミナーに参加した際に正社員の方から聞いているので、一先ず信じてみるしかないよな、と信じてます。
    ふくろうさんが仕事場で更なるご活躍をできることを祈ってます!もしよろしければ個人的にもやり取りしてみたいな、、と思ってますが、流石にワガママなお願いになってしまうのかな?という気持ちもあります。

    1. 勿論覚えています!その後の動向について全く情報が得られない状況だったので、実はこっそり心配していました。今回のコメントで詳細を知ることが出来て良かったです。
      風邪は抗生物質投入後5日くらいで快くなりました。ご心配おかけしました。
      自身に全く合っていない理系の勉強をしているよりも、働いていた方が苦しくないのは確かです(私にとって)。すばるさんについても同様であることを信じています。正社員という立場を経験するのは人生において(というか、現在のこの社会制度の下で暮らすことにおいて)良いことなんだろうなと日々実感しています。実際なってみて、良い社会勉強になっています。
      営業職希望なんですね。予定通り、5月に就職決まると良いですね!結果は本当に良薬です。私も、就職後は大学時代より幾分卑屈精神が抜けてきたように感じます。
      目標達成に際し、多少の無理が必要となる場面もあるかと思いますが、メンタル面の方はいかがですか?理系大学の呪縛から開放され、変化はありましたか?

      私と個人的やり取りをする方法は三つあります。
      ・このブログのメッセージ欄からメッセージを送っていただく方法(メールアドレスが必要です)と、
      ・Twitterでやり取りする方法(このブログの「人気記事TOP11」の上部にある「フォローする」という文字の下にある鳥のマークを押すと、私のアカウントが出てきます)と、
      ・アメブロのメッセージ機能を用いる(Twitterの鳥の隣のマークを押すと、「毛のふくろう」のページが出てきます)
      です。

      1. 返信ありがとうございます!方針が決まらなくて、自由な時間を持て余してしまっていたので、努力家で根性のあるふくろうさんに、返信を送っていいのかなみたいな迷いもありましたね…
        そうですね、居ても立っても居られないというか気持ちも上向き、1月に就活を始めることになりました!免許と就活とアルバイトと資格勉強(日商簿記、英検、FP)を現状並行して続けるつもりです!
        風邪の方が治ってよかったです!
        ストレス因子はめちゃくちゃ減りましたね。何をすべきで何がしたいのかということがよく見えてきた感じがします。理系に行ってからの6年間は苦しいことばかりで、楽しいこともほぼなかったですが、辞めてからは少しずつ体調も回復してきて、思ってたより早く方針が決まったので、早速就活を始める次第です。
        就職はすごく楽しみですね!社会の辛さを知らないからかもしれないですが、それでも楽しみな気持ちが凄くあります。現状働くのが好きな性格に生まれてそこは良かったのかなと思います。
        メッセージ欄の方に随時メールアドレスを送らせていただきますので、そちらから個別相談の方をさせてくださると凄く助かります!

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